153897人が本棚に入れています
本棚に追加
「ああ……、ああ……、じゃあ明日……」
ケータイに声を発する父の言葉を聞いて、会話の終了を予感する。
電話が終ったら、この扉をノックして、中に入って、いさぎよく怒られよう。
胸に手を当て、目を瞑る。
すると、
「じゃあおやすみ。明日こそは会えるから。……ちえみ」
ケータイに話し掛ける父の言葉に、耳を疑った。
……ちえみ?
父が口にしたのは、母とは違う、女の人の名前。
違う。重要なのはそんなことじゃなくて……――。
――『篠田智恵美』
不意に、いつか教室で聞いた言葉を思い出した。
篠田智恵美。
彼はあの日、確かにそう言った。
今聞いた名前は、篠田くんのお母さんと、……同じ……?
最初のコメントを投稿しよう!