忘れかけた遠い記憶

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屋上。 冬を予感させる秋風も、教室の冷風に比べれば気持ち良かった。 屋上には誰もいない。 別に立ち入り禁止ということではなかった。 ただ何もないし、風が強いため誰もわざわざ来たがらないのだ。 そこは俺にとって楽園ということはなかったけれど、一息つける休憩所ではあった。 いつもの通り運動場が見下ろせる端っこに座りこむ。 昼ご飯は行きがけに買ったコンビニ弁当。 いつもは野菜メインのコンビニ弁当だけど、今日はちょっと贅沢な焼き肉弁当だ。 「ぬぬ、美味しそうな肉ではないか」 「えっ?」 後ろを振り返ると、女の子が立っていた。 セミロングの髪が似合う、可愛い少女だった。 「一切れもーらいっ!」 彼女は焼き肉を奪った。しかも二切れ。 「……ふむふむ、なかなか美味いではないか。コンビニ弁当にしてはまぁ及第点かな」 「あの……」 「でもさ、コンビニ弁当は保存料とか合成着色料とか体にいくない物つかってるから、美味しくても毎日は食べない方がいいよ」 毎日……? もしかして、この女の子は俺が毎日ここでコンビニ弁当をつついているのを知っているのだろうか?
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