忘れかけた遠い記憶

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冷静になって考えればこの包みが弁当だと言うことは、予想するのは大して難しくないことだった。 まぁ、この状況で冷静になれるほど俺も冷めていたわけじゃないということで。 固く結ばれた包みを解いて、鈍銀色の弁当箱を取り出す。 それなりに重量がある。 恐る恐る、というかびっくり箱なんじゃないかと懸念しながら蓋をとると、何かが飛び出してきたわけではないが、俺は驚いた。 もしかしたら、びっくり箱の方がもう少し冷静でいられたのかもしれない。 「うまそう……」 そう、実に美味そうだった。 そして、実際美味かった。 母さんよりも、美味かったかもしれない。 俺は料理評論家ではなかったから、素材のハーモニーとか味のIT革命だとか上手いことも言えなかった。 某味王のように口から光線が出たわけでもなかった。 だが、いつの間にか焼き肉弁当を完食した少女に、間近から食べてる様を観察されているのに気付かないほど、俺の箸は進んだ。
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