忘れかけた遠い記憶

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少女の名前は皆川梓というらしい。 そして歳はやはり一つ上の先輩。 それから毎日のように梓先輩は俺に弁当を作ってきてくれるようになった。 そして交換だと言って俺のコンビニ弁当をひったくる。 たかが三百円そこらでコンビニ弁当なんか目じゃないほど美味い弁当が食える。 だから俺はいつも交換に応じた。 だが、やはりずっと他人に弁当を作ってもらうのには引け目を感じ、本人に申告した。 すると彼女は、 「ならあたしが弁当二つ作ってくるよ!」 と元気よく答えた。 それも流石に悪いと思い断ったが、梓先輩は凄まじい頑固ぶりを発揮し、まるで長坂橋を背にした張飛のように頑として動かなかった。 仕方なく弁当代三百円を払うから、と妥協案を持ちかけたが彼女は、 「お金に動かされるような弱い人間になったつもりはないよ」 と断られてしまった。 最終的に、百円ならと妥協してくれた。 月二千円近い出費は財布に響いたが、俺は満足だった。
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