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ヴー、ヴー。
携帯電話がメールの着信をしらせた。
『件名:re:re:re:
本文:いいよ
終わりにしよう』
こちらがメールしたのは20:12に対して、返信は20:30。
いつも数分で返信をしてくる洋介にしてはかなり遅かった。
少しは迷ってくれたのかな、と真由は少しだけ悲しい気持ちが帰ってくるのを感じた。だからといって別れを後悔してるわけではないのだけれど。
二人が出会ったのは高校一年の春。たまたま同じ部活に入って意気投合したのだった。
それから一年と半年。気が付けばお互いにマンネリ化した関係にうんざりしていた。
そしてつい15分前、真由は決意して別れを切り出した。
『件名:re:re:
本文:私たち、別れよう?
一緒にいて辛い』
たった二行の文章で、こうもあっさり一年半も続いた関係が終わってしまったことに寂しさを覚えながら、ふとカーテンを開いた。
街から離れたこの辺りはまだ自然が多く、空がよく見える。
窓を半分開いて、10月の風を浴びて火照った体の体温を下げる。
三日月の柔らかな光も合わさって、心がとても安らいだ。
『件名:re:re:re:re:
本文:長い間ありがとね
おやすみなさい』 パタン、と携帯を閉じて真由は由宇の待つベッドに戻った。
「別れた」
「誰と?」
「彼氏」
「いたんだ」
「うん。ごめんね、黙ってて」
由宇は少し困った様な表情で真由を見ていた。
それに気付いた真由は笑いながら言った。
「大丈夫ですよ、先輩。彼女さんと別れて、とか言いだしませんから。今は一緒に寝てくれる温もりがあれば満足です」
そう言うと、猫の様に丸くなって由宇の胸の中に潜り込んだ。
今は、ってのが気になるんだけどな。そぅ思いながら由宇は三つ年下の華奢な体をゆっくり包み込んだ。
その頃、洋介は最後に来たメールに目を通した。
「彼女?」
「元、彼女」
「別れたん?」
「そういうこと」
そこまで言うと、洋介は最後に夜空の三日月を見上げて自嘲気味に笑った。
しかし、すぐにその笑みは部屋の女性への優しいものに変わる。
にっこりと笑いながら洋介は彼女の待つ部屋に戻った。
互いが別々の心の拠り所を作っていたことは、二人が付き合いはじめた日と同じ三日月だけが知っていた。
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