第壱話:影に咲く花

6/19
前へ
/340ページ
次へ
「亘!……うっ」  悟は尻餅をつきながら手で口を覆った。 自分達が軽く思っていた事によって突き付けられた現実に恐怖する。 身体が小刻みに震え、瞼の裏側から溢れんばかりに涙が溢れ出る。 「あんた。亘に何をしたんだよ!」 奈美は殺意すら感じられる視線を、側に立っているNo.241201に向けた。 歯をきつく噛み締めているせいか、口紅の塗られた口元が一筋の血が流れている。 「あれの事ですか。抵抗した者は命が保証できるぐらいの範囲ならば暴行を加えてもよい。犯罪撲滅法第4条に基づき施行させて頂きました」  No.241201は奈美達に丁寧に説明した。 その言葉には嘲笑や悲しみなどの感情は一切含まれていない。 何故なら、男は機械的に己の職務を全うし、裁かれるべき犯罪者を裁き、そして滅すべき犯罪者を今連行しようとしているだけなのだ。 だが、少女達にすれば黒いローブの男の発言は、亘の命を虫けらの様だと言っている様にしか聞き取れない。 「いくら法律でも限度ってもんがあるだろ!」 「黙れ。犯罪者」 突然、口調の変わるNo.241201。 それは機械的なものではなく人間としての言葉に変わっている。 それゆえに機械にはない別の意味の恐ろしさが三人を飲み込んだ。 「法律は“絶対”だ。いかなる力も受け付けない絶対的な存在だ。その範囲の中なら何をやっても許される。お前らみたいな奴を痛め付けてもな」 「あんたねぇ……今、自分が何言ったか分かってんの!」 No.241201の言葉に黙り込む奈美達を、黒いスーツの男達が運ぼうとする。 「やめて!離して!」 身体を揺さ振り、黒いスーツの男の手を振りほどこうとする奈美。 だが、その時だった。 一発の乾いた破裂音。 周りの音が一瞬にして静まり返る。 捕まえられた悟とカズが大声を張り上げている。 ひんやりとした冷たい風が駆け抜け、少女の金髪がたなびく。 少女は動けない。 その様子に黒いスーツの男ですら、驚きを隠せずただ呆然としている。 「……モタモタするな。さっさと運べ」 生気のない低い声。 「わかりました」 黒いスーツの男は俯き、人形の様になった少女をを含めた3人をほうり込むと、黒ワゴンはそのまま走り出した。 そして、それを確認したNo.241201もまた闇に姿を消した。 片手に銃口から白い煙を吐く拳銃を持って。
/340ページ

最初のコメントを投稿しよう!

168人が本棚に入れています
本棚に追加