第壱話:影に咲く花

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 No.241201を乗せた黒い車はビル街を抜け、ガラス張りの建物へと辿りついた。 車はゲート通り抜けると地下へと進み、辺りを照らしている照明が暗さを紛らわしている駐車場に車を停めた。  スーツを着たNo.241201は黙ってドアを開け、エレベーターのある部屋へと歩いていった。 薄暗い駐車場に革靴の音が規則的に響いている。 スイッチを押すと数秒でドアが開き、男が入ったのを確認すると自動で閉まり上の階へと向かう。  透明なガラス張りのエレベーターから科学によって発展されビルが立ち並んだ都市が一望できる。 だがNo.241201にとって美しい都市も自分の仕事場ぐらいでしかなく、感動を覚えるどころか吐き気がするくらい憎悪しかなかった。  外の景色を見るのも止め振り返ると扉が開き、男は再び歩き出した。 細い通路の白い壁に数々の有名な絵画が飾られ、派手な絨毯が敷かれている廊下を黒いスーツの男が坦々と歩いている。 しばらく歩き、茶色の洋式のドアのノブを捻り扉を開けた。 すると後ろの大きな窓を背にして白髪に髭を生やし中年太りの老人が椅子に座っていて、その隣に髪を束ね灰色のスーツを着た青い縁の眼鏡が特徴的な女がファイルを抱えながら立っている。 「No.241201、よく来てくれた。感謝する。沖野」 老人がそう言うと沖野と呼ばれる女性が眼鏡を上げ、坦々と喋り始めた。 「はい。No.241201、貴方は昨日の任務でちょうど1000回を越え、任務成功率100%という驚異的な数字を示しています。よって我々“漆黒の花”は貴方にNo.1の称号“フェンリル”を授ける事を決定しました」 そう言うと沖野はブローチと狼の刺繍が入った手袋をNo.241201に渡してきた。 No.241201がそれを受け取るのを確認すると老人は頬杖をつき、男を眺めた。 「早速だが任務だ。新エネルギー“如宝石”の密輸入を防いでくれ。生死は問わない。詳しくは後に連絡する。称号に恥じない様な働きを見せてくれ」 その通達にNo.241201は黙って後ろに振り返りドアを開けると老人達に向け言い放った。 「了解した。だが俺は勲章の為に働いているのではない。全ての犯罪者を滅ぼす為に俺はいる」 そして洋式の扉は閉められた。
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