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No.241201ことフェンリルは扉を閉めた。
黒い狼の刺繍が入った手袋とブローチ。
両方、勲章のような物だが正直必要ないのは事実である。
手柄の為に殺しを始めるとロクな事がない。
だが、棄てようにも棄てる事が出来ない為、フェンリルは渋々ポケットに入れた。
すると、そんな男の前にエレベーターから若い男が歩いて来た。
歳は20代。
純白のウェーブの掛かった長い髪に金色の瞳。
髪と同調している様な白い肌は陶器の様に滑らかである。
外国人とも思われたが、恐らくただ色白なだけなのだろう。
そして、よほど白が好きなのかコートから靴まで全ての色が白に染められている。
(一般人か?いや、そんな訳ないか)
自分の中で納得しつつ、フェンリルは男とぶつからない様に小さく避けようとする。
すると、肩と肩がすれ違いさまに男は言った。
「どうして彼女を殺さなかったんだ?」
その言葉に男達は立ち止まりお互い向き合う。
フェンリルは確信した。
やはり、彼は一般人ではない。
普通の一般人が肌を突き刺す殺気に満ちた圧力を掛けれる筈がないと。
張り詰めた空気に鮮烈な言葉という名のメスが入った。
「昨日深夜の暴走族の少女、野々村 奈美が連行する際に暴れたそうじゃないか。公務執行妨害はした者は射殺するというのが暗黙の了解の筈」
白髪の男は肩を竦めて、溜め息をつきながら
「でも、君は撃ちはしたものの射殺しなかった。偶然だとは言わせない。何故なら、君は本来拷問用に開発されたショック弾という玩具を装填してたそうじゃないか。漆黒の花のNo.1になった男がそんな甘ちゃんじゃあ、この先不安になるね」
白髪の男は言ってやったと誇らしげな顔をしている。
緊迫とした空気が二人の間を横切るがフェンリルはそれを壊した。
「確かにそれは事実だ。だが、根本的にお前は間違っている」
フェンリルはポケットに手を入れて
「確かに公務執行妨害時の射殺は暗黙の了解だ。だが、俺達は人を殺す為にこの仕事をしている訳じゃない。殺すも殺さないもそいつの勝手。俺は殺す必要のない悪は絶対に殺さない。互いに持った信念が違うんだ。そんな暗黙の了解に縛られたくないな」
「アハハ!その手で何人も殺してきた人間がそんな事を言うなんてね」
白髪の男は高らかに不気味な程に笑った。
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