第壱話:影に咲く花

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「“殺す必要のない悪は殺さない”か。ハッ、ヘドが出る。それが君の信念だと言うならば、僕はどんなに殺す必要のない悪でも殺す。殺し尽くしてやるさ」 白髪の男は涼しげに言うと手を差し出して握手を求めてきた。 「まあ、お互いの信念とやらを貫き通そうじゃないか。僕の名前はNo.111914。よろしく」 「あぁ、よろしく」  フェンリルは軽く握手をすると小さく頭を下げて歩いて言った。 そして、No.111914もまたは帰る黒の男を見送り、フェンリルが入った部屋へと歩き出す。 握手をしたがその殺意を棄て切らぬまま。  エレベーターに乗ったフェンリルは落ちかけた太陽の光が眩しく輝いている街を見つめていた。 夕焼けで血を零した様に赤く染まるこの街はあまり好きではなかった。 戦争で焼き爛(ただ)れたのにも関わらず、数年のうちで立派な都市へと成長したからだ。 人によれば、それは再生を意味する素晴らしい事だと言う人もいる。 だが、その修復の早さに何処か戦争の傷痕が簡単に忘れ去られた様な気がして堪らないのだ。 何よりこの街の治安は犯罪者を殺害し積み上げて出来た言わば、死体のピラミッドなのである。 『自分がこの腕で犯罪者を削除し続ければ、自ずと平和な世が来る』 心の中に刻まれた自分を支える柱。 絶対無二な真実。 治安は自分が守らなければいけない 目を閉じ、心の中で呟くフェンリル。 ゆっくりと目を開けるとエレベーターのドアを開いていた。 覚悟の扉が開く様に。 「……行くか」  フェンリルは駐車場に向かって歩き、黒いワゴンに乗り込んだ。 数時間後、フェンリルはアパートの中にいた。 慣れないスーツを脱ぎ捨て、防弾チョッキを着用し黒いローブに羽織る。 ローブの耐久性はなかなかの物だが、万が一ということもある為、防弾チョッキは欠かせない。 そして、両手に貰った黒い革手袋を着ける。 だがその時、右手に焼ける様な痛みが走った。 急な痛みに急いで手袋を外すと、右手の甲に黒い花の焼印が入っていた。 恐らく、この手袋を着けた物は二度と組織を抜ける事が出来ないという証なのだろう。 「手の込んだ事を……」  フェンリルは呟くと改めて手袋をはめローブを深く被ると外に出た。 闇で新たな手袋を血で染める為に……。
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