第壱話:影に咲く花

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日が沈み、辺りに闇が彩り始めた頃フェンリルの携帯のバイブが唸った。 アパートの柱にもたれながら静かに電話を取るフェンリル。 「もしもし」 「任務だ。蜂須賀港に如宝石を積んだ密輸船が入港する。相手の数は200。君なら造作もない数だろう?生死は問わない。健闘を祈る」 そう言うと電話の主は電話を切った。  フェンリルは携帯を閉じてそっと胸に当てる。 男の頭の中で港の地形や建物の位置が立体となって巡っていく。 「……行くか」  フェンリルは夕闇に溶ける様に消えた。 アサルトライフルを肩に担いで。 一方、蜂須賀港では塩の香りが漂っているなか、大量の男達が木箱を運び出していた。 それを嬉しげに見つめる二人の男。 一人は七三分けで身体が全体的に細く、四角い淵の眼鏡がズレやすいのか整えるのが癖らしい。 もう一人の男は身長が低く小太りで、頭の上に数えられる程の少ない髪が生えている。 口にくわえた葉巻は顎が疲れそうな程に太い。 「さて、楽しみになってきましたね。藤山さん」 細眼鏡の男は手を重ねながら、猫撫で声の様な甘えた声を出した。 すると、藤山さんと呼ばれた中年の男は葉巻を口から放して口から煙を吐いた。 「まあね浜口くん。この密輸が成功したら……私達も大金持ちだからな。クフフ」 葉巻を改めて口にくわえ口元を少し緩ませる。 全てが段取りどおり順調に進んでいく。 金が増える喜びも大きいが、秘密に進められた計画が順調に進む事も藤山にとって大きかった。 だが、その喜びも一瞬のうちに悲劇に変わる。 それは一発の爆音から始まった。 横転したトラックから燃え上がる太い火柱が映し出す人影。 「不法輸入は犯罪撲滅法違反です。よって貴方達を捕縛します」 「うるせぇ!!」 機械的に標的達を見つめるフェンリルの忠告に、焦った木箱を運んでいた男の一人が拳銃を抜いて引き金を引いた。 銃弾が螺旋を描き、飛んでいく。 しかし、藤山はそれで黒いローブを着た男が死ぬとは思えなかった。 銃弾を放たれても一歩も動かない、無謀にも思える男の余裕。 「……撃ってきたか」  フェンリルは表情一つ変えず銃弾を右手で払いのけた。 殺意と言った名称のある物ではない鋭い剣の様な視線が向けられる。 「犯罪撲滅法により貴方達を裁きます」 その声とともにフェンリルは走り出した。
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