第壱話:影に咲く花

2/19

168人が本棚に入れています
本棚に追加
/340ページ
黒いローブを着た男は、オンボロのアパートの階段を上がり部屋のドアを開けた。 がらんとした部屋に置いてある電話が鳴り響き、留守番に変わった。 『今回の任務ご苦労だったNo.241201。報酬は君の銀行口座に入れておく。 次も頑張ってくれ』  それだけ言い残すと電話は切れて再び部屋に静寂が戻った。  No.241201と呼ばれる男は身につけたローブを脱ぎ捨てる。 そこには黒い寝癖だらけの髪と光を燈さない目、無精髭を生やし、長身でどちらかと言うと痩せた感じ20代ぐらいの若い男がいた。  男は冷蔵庫を開けると缶ビールを取り出す。 プルタブを開くと溢れんばかりの白い泡が噴き出してくる。 だが、余韻に浸る事なく一気に口の中へ黄色い液体を流し込む。 「……マズイ」  No.241201は顔が青ざめながらソファーに座り、テレビをつけた。  テレビではバラエティー番組や歌番組等の娯楽番組で溢れている。 作られた笑いに満ちたうるさいだけの画面を、男は嫌悪しチャンネルを変えていく。 そして、ニュース番組を見つけると、頬杖をついてぼんやりと見つめた。 最近発見された新鉱物“如宝石”についての情報が流れている。だが、そんなニュースには男は何の興味も示さない。 知ったところで今の自分の生活には何の関わりもないからだ。  No.241201はあくびをしテレビの電源を消すと、ゆっくりと立ち上がり風呂場に足を進めた。 シャワーを浴び雨に濡れて冷たくなった身体を温めていく。 漠然と過ぎていく育成ゲームの様な毎日。 風呂場から出る、タオルで身体を拭き、上下灰色のジャージに着替えた。 そして、流れ作業の様に電灯を消すと隙間風が吹く真っ暗な部屋でNo.241201は眠りについた。  2、3時間経った時、一本の電話が暗闇の部屋の静寂を壊した。 No.241201は目を開ける。 眠れない毎日が日常茶飯事の男にとって、2、3時間の睡眠は辛くない。  男は立ち上がると電話の方に歩き出し受話器を上げた。 「もしもし」 「唐梨子町三番地の公園で若者が騒音を鳴らし、近所に被害が出ている。ランクEからCに上がった。方法はどんなやり方でもいいから奴らを捕まえろ」 電話の主はそれだけ言うと電話を切った。 灰色のジャージを脱ぎ捨てNo.241201は黒いローブを身につけフードを深く被ると闇に消えた。
/340ページ

最初のコメントを投稿しよう!

168人が本棚に入れています
本棚に追加