第壱話:影に咲く花

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数分後、悟達は一まとめに座らせていた。 少しでも三人が動こうとすると、銃が月の光で輝きながら追ってくる。 「おい、三人別々の方向に逃げたら助かるんじゃねえか?」  カズは二人の耳元で声を下げながら囁く。 一斉に逃げれば逃げられない事はない。 しかし、それは殺害される可能性も表している。 「カズ、あんた馬鹿じゃないの?あんなに離れた私を掴まえてから一瞬でここまで来たのよ。逃げても見つけられて……おしまいよ」  奈美は俯き冷たい夜のコンクリートに涙を落とした。 奈美と言う少女はどちらかというと、勝ち気かつ男勝りの人物だ。 時として自分よりも身体の大きい男子にも、容赦なく食らいつく。 その少女が恐怖で泣きそうになりながら小刻みに震えるなど、悟とカズには考えようもなかった。 そんな中、No.241201は携帯を閉じ三人の元に近づいて来た。 「もう少しで此処にワゴンが到着します。それまで少し待って下さい」 「おい、あんた!こりゃあんまりじゃねぇかよ?俺達が何悪い事したって言うんだよ」 手錠で腕を固定され、動けない状態で喚くカズ。 だが、No.241201はたった一言で答えた。 「世界を悪で汚した」 その言葉は無機質で鉄の塊の様な重さがあり、首を掴まれているかの様に喉元から声が詰まって出なくなっている。 数分後、カーテンで窓を隠してある4WDのワゴン車が停まった。 全体を黒で統一された姿は闇を具現化したかの様である。 そして、ワゴンの中から下りてきた黒スーツの男達は悪魔の使いとでも言ったところだろう。 だが、奈美の視界にはそんな物は入っていない。 「嘘でしょ……」 ブラックボックスの様な真っ暗闇の中にそれは確かにいた。 腕だった物が通常では有り得ない方向に曲がり、紅い血液に滴らせながら白い骨が突き出ている。 顔は通常の3倍ぐらいに膨れ上がり、腫れぼったい瞼はもう何にも捉える状態ではない。  奈美は責めた。 何故、あの時自分は逃げたのかと、何故逃げたにも関わらず自分も捕まったのかと。 そんな自分が情けなくなり、叫ばずにはいられなくなった。 「ワタルゥゥゥ!」 少女の甲高い声が夜空を駆け抜ける。
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