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――
「今度は何の用ですか?」
また喧嘩を売りに来たのかな。
「猛くん,君に1つだけ言いたいことがあるんだよ」
「何でしょう?」
「佐竹くんを…,よろしく頼むよ!」
…?
「おっしゃってる意味が…」
「私は知っているぞ。君と佐竹くんが付き合っていることを。
土曜日に,たまたま見たい映画があったものでね。まさかデート現場を目撃することになるとは思わなかったが」
「いや,それは誤解…」
しまった。矢嶌先輩に見られていたとは。ファンクラブを敵に回したのか,俺?
「はっはっはっ。いちいち隠さなくてもいいのだよ。これは私と君の間の秘密だ。あんな楽しそうな佐竹くんは始めて見た。本当に君が好きなんだねえ。私には手が届きそうにないよ」
先輩と俺の間の秘密ってことは…
「ファンクラブの会員は知らないんですか?」
「当たり前だとも。彼らの中には独占欲の強い者もいるからね。君も気を付けたまえ」
「はあ」
良かった。まだファンクラブ全体は敵ではない。それに矢嶌先輩は味方らしい。
「ただ,もし君が彩夏を泣かせたら」
おっと。父さんと同じことを言い出したぞ。
「ファンクラブ全員で君を潰すよ」
前言撤回!こっちの方が過激だ。
「ははは。任せておいて下さい」
「うむ。ではさらばだ。任せたぞ」
矢嶌先輩は行ってしまった。
「大丈夫だった?あの人に変なこと言われなかった?」
教室に帰ると,彩夏が心配そうに聞いてきた。
「何も言われなかったよ。ちょっと雑談をしただけだよ」
「良かった~」
安心した表情を見せる彩夏。
「本当に大丈夫?」
藍が聞いてきた。
「本当に大丈夫だって。問題ない」
「もしかしてファンクラブの人達にバレたとか?」
真壁が言ってくる。
「いや。それは少し違うね」
ファンクラブの会長にはバレたが,ファンクラブ自体にはバレてない。
「え?ファンクラブって何?」
彩夏が食いついてくる。
「こっちの話」
彩夏はファンクラブの存在を知らない。自分のファンクラブなのに。
「ひっど~い。猛くんも私に隠し事するの?」
「いや,本当に彩夏には関係ないって」
そう言っても彩夏はぷいっと横を向いてしまった。藍と真壁は笑って見ている。今日はとりあえずこの機嫌を直さないといけないなあ。
そう思っていると朝のチャイムが鳴った。
~終~
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