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「味噌汁?」 いまいち意味の分からない原田は首を傾げた。 「はい。 今の沖田さんには塩が必要なんです。 だから味噌汁を飲ませると効果的なんですよ」 虹の言葉に原田は感嘆する。 「まあ、夜も遅いので味噌汁が無い可能性もありますから、その時は湯呑みに水を入れ、塩を一つまみ加え、良く掻き混ぜたものを沖田さんに飲ませて下さい」 「別に構わねえけどよ……。 お前がやれば良い話じゃねえのか? その手の事は得意なんだろ?」 虹の台詞に何か引っ掛かりを覚えた原田が怪訝な顔を虹に向ける。 「ああ、まあ得意なんですけど……。 ほら、他にも永倉さんとかが怪我しているので。 得意な私は、深手を負った人の手当てをしなければいけませんから」 沖田さんは軽いので他の人に任せても大丈夫だと思ったんです、と虹が付け加えると原田は納得したように笑った。 どうやら原田は虹の内心を見抜けなかったようだ。 「後、お願いしても良いですか?」 階段を下りきると不意に虹が沖田を原田に任せたいと言ってきた。 「任せておけ! ……ってお前は何処に行こうとしてんだよ」 原田の肩に沖田の腕を回させるなり、直ぐさま階段を一段上った虹に原田が声をかける。 「ちょっと忘れ物をしてしまって……。 大切な物なので取りに行かなくては。 心配には及びませんよ」 全てを言い切るか否かのところで、虹は階段を上っていってしまった。 「お、おい秋月! ったく……何やってんだ、あいつは」 渋々原田は沖田を背負って出口を目指した。 「……この、意地っ張りが」 階段を上りきったところで虹は自分自身に悪態をついた。 何と無く虹には分かっている。 自分は此処で死ぬの運命(サダメ)なのだと。 沖田総司を護るという使命を全うしてしまった自分が、このまま生き続けることは無い。 虹はそう考えているのである。 「願いを叶えてしまった先に待っているのは死だ。 お夏さんも願いを叶えるなり直ぐに死んで行った……。 だから、きっとあたしも……」 そこまで言ったところで虹の視界が狭まった。 急に足に力が入らなくなってしまい、虹はふらふらと先程まで居た部屋に転がり込んだのだった。
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