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「こいつら、刃向かう気満々だからな……。 下手に手を抜いては俺達が死にそうだ。 斬っていいぞ」 「単純明快で何よりです」 虹の呟きが聞こえた刹那、虹の姿が見えなくなった。 決して消えた訳ではないが、余りの素早さに目の前の男達は勿論、虹の隣に居た谷でさえ、目で追うことが出来なかったのだ。 虹は男の懐に潜り込み、華麗な居合をしてみせた。 罵声の飛び交う路地が一瞬にして静まり返った。 男達は目の前で起こった出来事に頭がついていかないのだろう。 瞬きを何度かして立ち尽くしている。 「……貴様っ!」 しかし虹に斬られた男が無言のまま倒れ込むと、意識が戻ってきたのかこぞって虹を罵倒する。 文字通り「一斉」に新撰組に向かって刀を上げた。 これが合図となり路地での大立ち回りが始まるのである。 何を考えているんだ……? 死すら厭わないとでも言いたげな戦い方だ。 これでは気を抜くなり斬られるかもしれないな……。 虹は三人の敵と対峙しながら冷静に状況判断をしていた。 辺りに目を配れば何処も似たり寄ったりの状況で、浅葱色の羽織を着た者は皆、三人程の敵を相手にしている。 原田は嬉々としながら槍を振るい、一気にかたをつけるようだ。 伊木は生まれ持った度胸で敵と鍔競り合いをしている。 しかし、残った一人を見た虹が息を飲む。 言わずもがな谷である。 抜刀したところまでは良かった。 しかしながら、谷の刃先は震えている。 恐怖で身体が強張り、手が震えてしまっているのだ。 谷さん……! 恐らく、ここまでの殺気を感じたことがなかったのだろう。 もしかしたら人を斬ったことがないのかもしれない。 殺気と殺気がぶつかり合う禍々(マガマガ)しい空気に当てられて、踏み込むことが出来ないでいるのだ。 虹としてはいち早く助けに向かいたかったが、目の前に敵が立ち塞がり、更には背中も取られているとなれば容易に動けない。 「邪魔だ。退け……!」 虹が噛み付くように叫ぶも、目の前の男は嘲笑うかのような笑みを浮かべる。 そして虹の視線の先にある谷を見て、より一層深く笑った。
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