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荷物を置いた虹は、一息つく間もなく袴姿の数人の男の前で正座をさせられていた。 厳つい顔の男、目つきが鋭い男、鮃(ヒラメ)顔のような男、堅実そうな男、豪快そうな男、穏和そうな男と多種多様な顔に虹は居心地の悪さを感じてしまう。 「皆さん、今日から壬生浪士組に入った秋月虹さんです」 藤堂は山南の言い付け通りに虹を紹介した。 「そうか。私は局長の近藤勇だ。 これから同志として宜しく頼むぞ」 厳つい顔の男こと近藤は朗らかに笑って虹を迎えた。 綺麗な髷を結っており、質実剛健なる近藤は見るからに器が大きそうだ。 「副長の土方歳三だ。 そんな細っこい体で大丈夫なのかよ」 餓鬼を採用するなんて何考えてんだ山南さんは、と土方は仏頂面で吐き捨てるように呟く。 鋭い眼差しの男とは土方のことだったらしい。 髪を伸ばし高い位置で一つに束ねており、 目つきは悪いがこの中では一番顔が整っているように見える。 独特の色香がある男だ。 へえ……この二人が「あの」近藤と土方か。 虹はまじまじと二人を見つめた。 「土方さん、秋月さんは凄いんですよ。 斎藤さんと互角に戦ったんですから」 試合を見ていた藤堂は未だに熱が冷めないのか熱く語る。 土方はというと、そうかと短く呟くだけで虹を鋭い眼差しで見つめるだけだった。 うわ……この視線苦手だ。 土方の視線に虹はすっかり苦手意識を持ってしまう。 「へえ……それは凄いですね。 是非今度は私と手合わせして下さい。 あ、私は沖田総司です」 明るく虹に笑いかけるのは沖田だ。 健康そうな肌色に整ってはいるが鮃顔の彼の笑顔はどんな人間でも癒されそうだ。 髪は土方よりも長いらしく、土方の真似をしているのか頭の高い位置で一つに結わいている。 「私は永倉新八だ。宜しく。 総司、手合わせなんて止めておけ。 秋月が死ぬぞ」 自己紹介しながら苦笑する堅実そうな男は永倉。 体格が良く、近藤のように髷を結っていた。 まだ若いのかもしれないが、局長と同じくらい貫禄がある。 隣では沖田が「私を化け物呼ばわりしないで下さいよ」などと子供のように頬を膨らませていた。 「俺は原田左之助だ。 死にぞこないの左之助だぜ。 ほら見よ!俺の腹を!」 原田はいきなり立ち上がると豪快に自分の腹を見せた。
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