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「……はあ」 虹は曖昧な返事しかできない。 それを見た藤堂が原田は昔に切腹をしたことがあると教えてくれた。 「つれねえな」 いまいち反応のない虹に原田は残念そうに着崩れを直した。 原田はただ一人、坊主のような短髪だった。 「私は最年長の井上源三郎です。 困ったことがあれば遠慮なく相談して下さい」 虹の見立てによる「穏和そうな男」とはこの井上のようだ。 確かに見るところ、この場にいる誰よりも年上そうだ。 井上ならば優しく色々な事を教えてくれそうだと、 虹は何かあればこの人に相談しようと決意した。 「先程も言いましたが、近藤さんと土方さんと山南さん意外は皆さん副長助勤です。 秋月さんは初めての平隊士ということになります」 全員が自己紹介をしたのを見届けた藤堂は虹に言う。 私が初の平隊士か。 「……先程藤堂さんにもご紹介いただきましたが、改めまして秋月虹です。 入ったばかりなので右も左もわかりませんゆえ、ご指導、ご鞭撻の程宜しくお願い致します」 虹は今まで以上に丁寧にお辞儀をした。 こんなに長文を話したのは久しぶりかもしれない。 「そんなに畏まらんでもいいさ。 これから共に京の治安を守っていこう」 近藤は豪快に笑った。 一同が和やかな雰囲気を醸し出している時、土方だけは苦い顔をして虹を見ていた。 こいつの目……。 この目は、間違いねえ。 ……人斬りの目だ。 漆黒の闇が広がる虹の右目に土方はこいつは今まで何を見てきたのかと、疑問を持たずにはいられない。 「……おい餓鬼」 土方は唐突に虹を呼んだ。 「餓鬼ではありません。秋月です。 それに今年で十八になりましたから餓鬼という年でもありません」 「私とそう変わらないじゃないですか。 てっきり十三くらいかと……」 沖田はあからさまに驚くが虹に一瞥され、小さく謝った。 「気にしてません。 山南さんも同じようなことを思っていたようですから」 虹の言葉には少し棘があるようだった。 余程幼く見られるのが嫌なのだろう。 「秋月。 お前ここに来る前は何をやっていた」 このままでは尋ねたいことが尋ねらなくなりそうだと思った土方は探るような眼差しで虹を見遣る。
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