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屯所へ戻ってきた虹とお梅を待っていたのは意外な事に土方だった。
土方に詰問されるような疚(ヤマ)しいことがある虹としては苦い顔をするしかない。
だがお梅を見た瞬間、土方の眉間には深く皴が刻まれ、対するお梅は土方のことを鼻持ちならない態度で一瞥した。
そんな殺伐とした空気を肌で感じた虹は内心冷や冷やとしながら、半ば強引に奥座敷へ行けとお梅の背中を押し、その場を立ち去らせる。
「なんでお前があの女と一緒に居るんだよ」
鋭い視線で詰問してくる土方に溜息をつくしかない。
「暇(イトマ)をどう使おうと私の勝手だと思いますが」
正論を言う虹に土方は顔を渋くする。
「なんですか?
わざわざ私に厭味を言う為だけに門前で仁王立ちしていた訳じゃないですよね?」
早く本題に入れと言わんばかりの虹の態度が癪に触ったのか、土方の顔がいつも以上に不機嫌になる。
「佐伯が殺された」
「そうですか」
勿体つけて教えた割には虹の反応が薄く、土方は肩透かしを食らったような気分になった。
「全てはお前の目測通りだ。
なんだかこうもぴたりと当たると薄気味悪いぜ」
自分に何を伝えようとしているのかさっぱり理解出来ない虹は怪訝な顔をする。
「芹沢さんの行動や性格を考えれば造作も無いことです。
土方さんは何が不満なんですか?」
「どうやら佐伯が殺されたことを芹沢さんは知らねえみたいなんだよ。
さっき佐伯は居るかと俺に聞いてきたからな」
ここで何となく土方が言おうとしている事が分かった気がした。
「芝居を打っているだけでは?」
「不器用な芹沢さんがそんな気の利いたこと出来ねえと思うんだがな。
芹沢さんの性格を熟知しているお前なら考えずとも分かるだろう?」
見事に揚げ足を取ってきた土方に虹は苛立つ。
したり顔をしている土方を見ると尚一層だ。
「では新見さんあたりではないんですか?
あの人は狸みたいな性格ですから芝居を打つくらい朝飯前ですよ」
口許を歪めて笑う土方に、遂に虹が我慢しきれなくなった。
言いたいことがあるならきちんと言って下さいよ、と問い質してしまったのである。
自ら墓穴を掘った形になってしまい、虹は忌ま忌ましく舌打ちをした。
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