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「秋月、支度しろ」
八月十二日、縁側でひなたぼっこを楽しんでいた虹の目の前に芹沢が現れた。
なんだ、と不機嫌そうに上体を起こし芹沢を見遣ると、芹沢はもう一度「支度しろ」とだけ行ってその場を足早に立ち去った。
だからなんで支度するのかを言っていけよ。
虹は不満そうに芹沢の背中を睨みつける。
行けばいいんだろ?行けば。
芹沢の背中が見えなくなると、観念したように短く溜息をついて、外に出る支度をすることにした。
恐らく、下手に嫌だと言って芹沢と言い争いになるのは御免だと思ったのだろう。
八木邸の門前に行くと、そこには芹沢派の面々が居た。
この時点で虹の脳内で警鐘が鳴った。
この面子で無償の奉仕活動をするとは到底思えない。
即座に回れ右をした虹だったが、芹沢に首根っ子を掴まれ身動きが取れない。
嫌そうに振り返ると爽やかな笑みを浮かべた芹沢が居た。
げ……。
良からぬ事を企んでいる顔だ。
顔が引き攣るのを感じながらも虹は、必死に微笑んでみせることしか出来なかった。
「芹沢さん、私は必要無かったんじゃないですか?」
市中を歩きながら虹は芹沢に尋ねる。
現在、野口や平間も居るため、六人で市中を闊歩していた。
虹が抜けても五人である。
それだけでも大層な人数だろう、というのが虹の言い分なのだ。
「お前は佐伯の代わりだ。
あいつが辻斬りに殺されてから思うように役が回らなくてな」
芹沢の一言に虹は今更ながら佐伯を斬らなければよかった、と苦い顔をする。
つまり佐伯がこの場に居れば虹は御役御免ということなのだから。
「それにお前は腕が立ち、誰よりも思い切りが良いからな」
不敵に笑う芹沢はまるでこれから斬り合いにでもなるぞ、と言っているようだった。
巻き込まれている。
確実に良からぬ事に巻き込まれている……。
これから先の事を考えた虹は頭が痛くなった。
そうこうしているうちに、いつの間にか目的地へと到着していた。
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