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「……すみません。
おっしゃっている意味がわかりません。
もう一度お願いします」
この声は紛れも無く虹の声である。
今朝の話だ。
隊士の役職が決まり一同が次々と名前が呼ばれていく中、何故か虹の名前だけが呼ばれなかった。
そのため虹は解散した後、土方に直接自分の役職を聞きに来たのだ。
新手の嫌がらせかとも思ったが、これだけ人数が多いと一人くらい漏れるのも仕方がないと自分に言い聞かせやってきた虹が聞いた言葉は余りにも衝撃的だった。
「二度も言わせるな。
お前は今日から芹沢さんの小姓だ」
土方はうんざりしながら言う。
その言葉を飲み込むまで虹は暫く時間がかかった。
私が芹沢さんの小姓だって……?
ふざけるな!こんの性悪が!
などと言う暴言を必死に飲み込み、虹は冷静を取り繕う。
「私はまだ若輩者ですからそのような大役は勤まりません」
虹は牽制する。
「いや。
これはお前にしか出来ない仕事だ」
土方は気持ち悪いくらい爽やかに笑った。
初めて見た土方の爽やかな笑顔に虹の顔は引き攣った。
「私にしか出来ない仕事……と言いますと?」
「近藤さんも俺も芹沢さんには手を焼いているんだ。
横暴で真昼間から酒を浴びる様に飲んで厄介事を持ち込んでくる。
利口なお前なら芹沢さんの手綱を握れると思ったんだが……出来るよな?」
土方は有無を言わさぬ眼差しを虹に向ける。
「ご冗談を。
私が手綱を握れるのは沖田さんだけですよ」
虹の顔は未だに引き攣っている。
心中は決して穏やかではない。
そのため軽い冗談が冗談に聞こえなかった。
「総司の手綱を握れるお前なら芹沢さんの手綱も握れるさ」
土方は事もなげに言った。
沖田さんと芹沢さんが同じわけないだろ!
なんだよ私は芹沢さんのお守りか!?
ったく厄介事を持ってくるのはあんただよ……!
人の足元見やがって!!
虹は怒りが爆発しない様に拳を握り締めた。
「まあどうしても出来ねえって言うなら出てってもらうしかねえな。
与えられた役職を全うできない奴は此処に必要ない」
土方は勝ち誇った様に笑う。
これじゃあ断れないじゃないか……。
虹は目眩がした。
「……承知しました。
謹んでお受けします」
虹は諦めたのか土方に頭を下げる。
「そうか。やってくれるか。
いや、頼もしいな」
土方は厭味にも取れる言葉を言った。
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