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……何か勘違いされているのか?
子供を諭すような口調の温厚な男に虹は首を傾げる。
可笑しい……。
最年少の斎藤一は確か十九だったはず……。
どうして一つ下の私が追い返される。
「今年で十八になりました」
とりあえず虹は自分の年を言うことにした。
それを聞いた若い男が素っ頓狂な声を出したが、この際気にしない。
虹はちらりと腕組みしながら自分を値踏みする男を見遣る。
その男も少なからず驚いているようだった。
「そうでしたか。
それは済みませんでした。
申し遅れました。
私は山南敬助と言います。
ここでは副長をやっています」
山南は速やかに謝り口調を改め自己紹介をした。
「私は藤堂平助。
これでも副長助勤です。
と言っても今いる隊士は皆さん副長助勤なんですが」
「……俺は斎藤一だ」
藤堂と斎藤の自己紹介が終わると虹は一同を見遣った。
この人達が……。
出会えたことに嬉しさを感じてしまい、つい顔が緩んでしまいそうになるが虹は表情を変えることなく真顔を決め込んだ。
「それではこれから入隊するにあたって簡単に貴方の技量を見せてもらいます」
山南は片付けた荷物の中から二本の竹刀を出して、一本は虹に渡し、もう一本は斎藤に預けた。
その意図が分かった虹は微かに顔を強張らせる。
それもそのはずだ。
面識は無いものの、斎藤の存在を知っている虹は勿論、斎藤の力量も知っているつもりだ。
具体的な強さは分からないが、かなりの腕前なのは斎藤の放つ剣客独特の雰囲気で察しがつく。
私が敵う相手……なのか?
虹は怪訝な顔で山南を見る。
「大丈夫ですよ。
斎藤君は腕がいいので寸前で止めてくれます。
これは貴方を痛めつける訳ではありませんから」
山南は虹の言いたいことが分かったのか優しく言う。
もう一人の副長ならばこんなことは言わないだろう、と山南は思わず苦笑いしてしまう。
その言葉に柄にもなく安堵したのか、虹の肩の力は抜けた。
「宜しくお願い致します」
背負ってきた風呂敷を降ろし、虹は斎藤に頭を下げた。
藤堂がその荷物を持ち上げた時、ちらりと風呂敷から中が見えてしまった。
端から覗いていたのは虹の着替えであろう黒い袴……。
彼には入隊出来ないかもしれないという考えは思い浮かばなかったのか。
八木邸に住まうことを前提とした荷物に藤堂はただ笑みを零すのだった。
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