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門前から八木邸内へと案内してもらった虹は中庭で斎藤と対峙していた。
虹も斎藤も一番無難な中段に構えて山南の合図を待つ。
そんな僅かな時間でも斎藤は虹の力量を見抜こうと虹を見据える。
射抜くような眼差しに居心地の悪さを感じる虹だったが今は気にしていられない。
「始め!」
山南は開始の声をかけた。
一瞬でも気を抜いたらそこで終わりそうだ。
虹には分かる。やはり斎藤は相当な遣い手なのだと。
数多の剣を見てきた虹だったが、相手に斎藤のような威圧感を感じることなど滅多にない。
そして自分になんらかの疑いを持っている斎藤が寸止めしてくれる確証はどこにもない。
虹は最善を尽くさなければ命は無いかもしれないと微かに苦笑いした。
どれくらい時が経っただろうか。
両者は今だに一歩も動いていなかった。
いや、迂闊には動けないのだ。
辺りが緊張感に包まれ静寂が訪れる。
山南は腕を組みながら、藤堂は固唾をのんで二人を見守る。
そんな時、先に動いたのは意外にも斎藤だった。
珍しいな。斎藤君が先に仕掛けるとは……。
山南は斎藤らしくない戦いに微かな疑問を持った。
いつもの斎藤ならば自分から仕掛けるなど滅多にない。
相手の出方を辛抱強く待ち、隙が出来た瞬間に斬り込む。
それが斎藤の常套戦法なのだ。
しかし今はどうだろう。
いつもとは真逆だ。
斎藤が素早く相手との間合いを詰め、相手は斎藤の一撃を受け止めを鍔ぜり合いになっている。
山南が冷静に分析している頃、当の虹は冷めた眼差しで斎藤を見つめていた。
これが斎藤一……。
確かに強いな。
……やはり此処に来てよかった。
虹は口角を釣り上げた。
その不敵な笑みに斎藤は怪訝な顔をして一端、間合いを取る。
……なんだ?
この違和感は……。
いつも冷静沈着なはずの自分の心がざわつくのを感じた斎藤は困惑してしまう。
しかしそれを振り払うように再び竹刀を振るった。
いつの間にか虹の顔は無表情に戻っていたが、斎藤の竹刀を受け止めるよう努めることにする。
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