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鈍い音が辺りに響くなり、虹はしゃがみ込んでしまった。
見事に鳩尾へと入った斎藤の攻撃のお陰で咳込んでしまい上手く呼吸が出来ない。
虹の瞳にはその苦しさで涙が滲んでいた。
一方斎藤は驚きのあまり立ち尽くしてしまう。
俺が、手加減出来なかっただと……?
隊士募集の為に道場を回った時には必ず手加減をしていた斎藤だったが、虹に対しては全く余裕がなく、寸前で止める予定だった竹刀も綺麗に打ち込んでしまった自分に驚きが隠せない。
「そこまで!」
終了を告げる山南の声で斎藤は現実へと戻ってきた。
「凄いですね。斎藤さん相手にここまで粘るなんて」
藤堂は虹に手を差し延べる。
なんとか呼吸が出来るようになった虹は苦笑いしながら藤堂に立たせてもらった。
「秋月君。君を今日から壬生浪士組の一員とします」
山南は穏やかな眼差しで虹を見た。
虹は飛び上がるほど嬉しいのだろうが、姿勢を正してただ一言「ありがとうございます」とだけ言う。
そんなやり取りを見ていた斎藤は耳の裏に微かな痛みを感じた。
怪訝な顔をして右の耳の裏に手をあてて指先を見ると、微かに血が滲んでいる。
……あの時か。
回避したと思われていた最後の一撃は微かではあるが斎藤に届いていたのだ。
それにしてもあの目はなんだったんだ。
斎藤は目の色が変わった虹を思い返していた。
虹を一瞥すると最初と何一つ変わらない。
藤堂や山南と話している虹は元に戻っている。
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