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あれは見間違いだったのだろうか。 いや、あの時確かに俺は怯んだ。 あの時感じた寒気は間違いなく殺気だった。 俺は一瞬秋月を畏れたんだ。 どちらが本当の秋月なんだ。 それに先程から感じている違和感がまだ消えない……。 ……あいつは何かを隠しているのかもしれない。 根拠は全くないが斎藤は漠然とそう思った。 秋月虹は要注意人物。 斎藤の頭の中では瞬時にそんな方程式が出来ていた。 しかしながら、かなりの遣い手であることに変わりはないから、一応虹のことは認めたようだった。 「秋月君、とりあえず荷物を置いてきて下さい」 「はい」 「それでは藤堂君、案内してもらえますか? あと、出来るならば皆さんに秋月君のことを紹介してもらえると有り難いんですが」 山南の頼みを藤堂は快諾して虹を八木邸の屋内に連れていく。 その場には山南と斎藤の二人が残った。 「手加減しなかったんですね」 山南は予てより気になっていたことを口にした。 「“しなかった"ではなく“出来なかった"の間違いです」 斎藤は苦い顔をしながら呟く。 まさか斎藤からそのような言葉が出てくると思っていなかった山南は一瞬言葉を忘れてしまった。 「そうでしたか」 山南は斎藤君を本気にさせるとは凄いと付け加えて笑う。 「俺はあんなに速い技は繰り出せない。 ……あいつには何か、不思議な力を感じる。」 斎藤は自分の試合を思い返し、無意識に呟いていた。 山南はいまいち意味がわからず首を傾げるだけ。 「秋月はこれから先、もっと強くなるかと」 そして斎藤はフッと笑った。 「素晴らしい人材がやってきてくれたものです。 これからが楽しみですね」 山南の言葉に同意するように斎藤は静かに頷く。 今この場には居ない不思議な少年に二人は何かを感じていたようだった。
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