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「それにしてもあの人苦手だな……」
沖田は歩きながら先程の光景を思い出しぼやく。
永倉も同感だ、と苦虫を噛み潰したような顔をする。
「あのような男が居たのでは、今後我々は大坂で自由な行動が出来ないな。
聞くところによると内山は、油を買い占めて暴利を貪っているらしい。
この際、天誅を加えようか」
近藤の冗談に一同の顔が引き攣る。
近藤さん。
冗談が冗談に聞こえません……!
虹は近藤が近藤なりに相当怒っているのだと悟った。
暫く歩くと前方から厳つい力士のような体つきの男が力士を数人従えて歩いてきた。
仇討ちにやってきたのかと虹はすかさず近藤の前に立ち、いつでも抜刀出来るよう構える。
「どうやら敵ではなさそうだ」
近藤は虹の肩に優しく手を置き微笑む。
近藤がそういうならと虹は構えを解いて沖田の横に並んだ。
近藤とその男の話を聞いていくうちに、男が大関の小野川喜三郎であることが分かった。
「貴方達のことを知らず、うちの若い者が手を出したようで申し訳ありませんでした」
小野川は近藤に頭を下げる。
一人を死なせてしまったことは申し訳なかったと近藤も頭を下げた。
斬った張本人である虹としては居心地が悪い。
虹には近藤に対する謝罪の気持ちはあれど死者に対する謝罪の気持ちはこれっぽっちも持ち合わせていない。
斬られた人間にはそれなりに落ち度があるものだというのが虹の持論である。
非情な人間だと思われるかもしれないが、これが秋月虹なのだ。
「聞くところによると貴方達は壬生浪士組の方だとか。
どうでしょう。
今までのことは水に流して友好関係を結びませんか」
どうやらお互いに落ち度があったということで新しい一歩を踏み出さないかという事らしい。
断る理由は全く無いので近藤はそれを快諾する。
こうして小野川の部屋と壬生浪士組は友好関係を築いていった。
夏になると小野川の部屋の力士が壬生へとやって来て相撲を見せてくれたりと長きに渡り友好関係が続いたという。
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