プロローグ

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 僕が生まれたその年、科学は大きな一歩を踏み出した。その発明は、空想に自分の存在を投影するカラクリを構築することに成功したのだった――  人は脳から発せられる電気信号で筋肉を刺激し、意思を動きとして反映させる。それは既知の事実である。  そして、今回の科学の一歩。  それは、脳から発せられる電気信号を用いて、「デジタルな自分」を動かす――完全同調(フルシンクロ)というものだった。  簡単に言えば、自分の分身を思い通りに動かせるということ。  そう、思い通りに。  人口的に創造されたバーチャルな世界で、現世ではまずお目にかかることはないだろう――鎧を纏い、大剣を構えた姿の人形……つまりはゲームに出てきそうな格好をしたそのアバターを、意のままに動かせるのだ。  コマンドなんていらない。  選択肢なんて現れない。  ただ、僕達は現実世界の時と同じように――まあ現実で剣を振るうと言うのはまずないが――腕を動かし、自由に舞えばいい。  僕達は分身を手に入れた!  ……と、言うことらしい。  しかし、僕にはその発明の素晴らしさと言うものがイマイチ伝わってこなかった。  TV越しにその力を見せ付けられても、特になにも感じなかったのだ。それは僕が無関心からだったからかもしれないし、身近に無いが故に実感が沸かなかったからかもしれない。  だって、そんなものだろう、最先端の科学と僕達の関係なんて。  「地球は青いんだよこんチクショウ!」って誰かが如何に力説しても、僕達は実際に見るかしない限り、その言葉を信じれない。  数学の教師がどんだけ優秀だとしても、僕はそんなのに感謝したりはしない(ああ、絶対にだ)。  事実は小説より奇なりと語られても、平凡な人生を歩んできた僕からすると、やはり否定したいところである。  そりゃさ。  僕が実際に宇宙から地球を見れば――  その数学の教師が底辺レベルの成績をトップレベルまで導いてくれたなら――  僕の愛用しているPCがいきなり可愛い女の子に変身したなら――  認めてやるよ、その事実とその凄さを。  科学の結晶が如何に素晴らしいものかってな。    んで、結局はこの身をもって思い知らされたわけだ。  いつもそうだ。僕がこうやって余裕で構えているとき、事実は僕に反旗を翻す。  
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