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地獄の始まり
夜になるとその商店街は街灯も消え人気の無い、まるでゴーストタウンのように静まり返る。
そんな商店街にふらふらと1人の男があらわれた。ジーンズはかなり長い間穿き続けていたせいか、裾の部分は破れてボロボロになっているし、泥汚れは雨の勢い程度ではびくともしない程の頑固さである。
服もズボン同様あちらこちらが汚れと破れで支配されている。髪の毛や髭は伸び放題、荒れ放題、靴は無い。裸足で歩いている。
そんな男の手にはしっかりと握り締められていた小さな茶色の封筒、彼の体はすでにボロボロにもかかわらずその手に握られた封筒はまるで己の命以上に大切なモノだと言わんばかりに必死に守り抜いた。
そして、彼の辿り着いた場所は一台のポスト。最近の「普通郵便」「速達郵便」の二口に分けられているものではなく、錆が程よく浮いた昭和の薫りが漂う古ぼけたポストだった。
「た、頼む。これ以上の後悔は重ねないでくれ・・・」
ボーン、ボーン、ボーン・・・
静まり返った商店街に深夜零時を知らせる時計の鐘の音が響き渡る。それと同時に男はスッと手紙を入れると静かにその場に倒れこんだ。
その後男が動く事は一切無かった。
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