255人が本棚に入れています
本棚に追加
―――午後2時
客足が落ち着いてきた店内で、空いた席の片付けをしている訳だが…
「こらー、働けー甲斐性なしー?」
「あのなぁ、美奈保…お前、甲斐性なしの意味が分かって言ってるのか?」
俺と同じデザインのエプロンを身に付けた美奈保が、腰に手を当てて俺に指示を飛ばす。
「いーのいーの、ナガトなんだから」
美奈保は静真と同じく今年の春から高校生になった、それを機に二人でこの喫茶店の手伝いを始めたらしい。
ランチタイム以外の客の目当てが静真とコイツ、そして可奈保さんという構図が出来上がるまでに大した時間はかからなかったようだ。
「それに今日は静奈がデートだし~、くあー思い出したらムカついた」
「なんというか…一人で賑やかな奴だよな、お前って…」
思い切り睨まれたのでとりあえず逃げ出した俺は厨房の様子を覗き込む。
「大家さん…じゃない、可奈保さん、とりあえずお客さんの居ない席は片付け終わりましたよ」
「あら、ありがとうナガトくん、あ、そうだ…ナガトくん、私ちょっと手が離せないから…そこに置いてあるメモに書いてある食材の買い出しに行ってもらえないかしら?」
そういえば新作をメニューに出すとか言っていたもんな…良い匂いを漂わせる鍋を真剣に見つめる可奈保さんに分かりましたとだけ告げて俺は厨房を出た。
邪魔しちゃ悪いからな。
「あれ、どっか行くの?」
「買い出しだよ、すぐ戻るさ」
カウンターで暇そうにしていた美奈保が俺のジャンパーの袖を掴んだ。
「もし静真を見かけたら…変な虫がついてないかチェックしなさいよ!」
「いや、だから買い出しだから…静真を探しに行くわけじゃないし…」
これも仕事だ、と美奈保に押し切られ俺は店から出た。
最初のコメントを投稿しよう!