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食べ始めて直ぐに静真が顔を上げた。
「そうだ…ナガトさん、んと…き、昨日ね…」
学校で何があった、とか…あの番組は面白いとか、この本が楽しいとか…取り留めない話題が何時もの事。
俺はそれに相槌を打ちながら味噌汁をすする、その話題が何時もの事なら…だったが、今日は違っていた。
「…」
何時ものトークとは違う切り出し方に、俺も箸を止めて顔をあげる。
コイツがこんなに黙り込むのは珍しいからな、よっぽど驚く事があったのか?
「黙ってちゃ分からないぞ、何時もの調子って訳には行かないのか?」
「う、うん…えっと昨日、ね……その…ち…痴漢に…遭ったんだ…」
顔を赤らめて下を向く静真。
まぁ…半分男と言っても割合としては女性が勝ってる体だからな、運が悪ければそういうのにも遭うだろうな。
静真の『体の事』を知らずに見れば、十人中九人は文句なしにコイツを女の子と言うだろう。
「なるほど、その痴漢を血祭りにしたわけだな…」
「むぅ、コッチは真面目に話してるのに…」
ちょっと拗ねた様に睨んできた静真に「勿論冗談だ」とフォローを入れて先を促す。
「突然触って来て…凄く気持ち悪くて…怖かった…」
だから普段は男装…というか、学ラン姿なのか?
まぁしかし装うって代物ではない程に拙い男装にしか…見えないがなぁ。
「なるほど、それで静真は何も出来なかった…と?」
「…うん、体を捻って逃げようとしたり、大きな声を出そうとしたんだ…でも」
静真の…『気配』が『変わった』…これはまさか…。
「…逆らえ…なかったんだ…イヤなのに、気持ち悪いのに…頭がボーっとして、体も動かなくて声も出なくなってて…」
気配が変わったのを皮切りに、段々と静真の声色が艶がかって来る…間違いないな、コイツは『印』を付けられている。
――――パンッ!
俺は下を向いたまま喋り続ける静真の目の前に両手を出して思い切り大きな音を立てるように叩いた。
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