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・上方 英理編
身体を動かすのは好きだった。
特に走るのが。
身体に感じる風。
自分が生み出すスピードに乗ってくる風。
“地球の生命”を感じる。
パーン
渇いた音。
スタートを合図するピストルの音。
音と共に目前のゴールに向かって駆け出す。
スピードに乗った風はオレと一体になる。
「すごいなァ、上方ー。また記録更新だぞ!」
「マジっすか?へへっ、やっりぃ!」
顧問にVサイン。
…走り終わった後の、この優しい風も気持ちいい…。
「上方、やっぱり大会出ろよ。ここで眠らせてるのは勿体ないぞ。」
「カンベンしてよ、せんせっ。アガリ性のオレには無理ですって。ガチガチに緊張して走れなくなるのが関の山ッす!」
「俺はマジメに言ってるんだよ、上方。このタイムならオリンピックも夢じゃないと思うんだがなぁ。磨けば光るぞ。」
「…」
「ヨシ!今度の地区大会、メンバーに入れとくからな!」
「エッ、マジでカンベンですって!ホントにオレっ…」
「今年はトロフィー、ウチのもんだなぁ!ハッハッー!」
「オレの言い分は無視!?ねえ…無視!?」
「…センコー、熱血漢だからなー…スポコン入るしな。」
「ま、期待してるよ。実際、俺らも。上方!」
バシッと背中に一発。
「せんぱーい…マジメにオレ、大会とかヤなんですって…」
…ったく…人事だと思って。
人事だけどさ…
でも、ほんっとーに!目立つのスキじゃないんだよ…。
今だって…
どれほど、“抑えて”走ったか……。
本当の力を―――
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