0:目醒めの呪文

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・上方 英理編 身体を動かすのは好きだった。 特に走るのが。 身体に感じる風。 自分が生み出すスピードに乗ってくる風。 “地球の生命”を感じる。 パーン 渇いた音。 スタートを合図するピストルの音。 音と共に目前のゴールに向かって駆け出す。 スピードに乗った風はオレと一体になる。 「すごいなァ、上方ー。また記録更新だぞ!」 「マジっすか?へへっ、やっりぃ!」 顧問にVサイン。 …走り終わった後の、この優しい風も気持ちいい…。 「上方、やっぱり大会出ろよ。ここで眠らせてるのは勿体ないぞ。」 「カンベンしてよ、せんせっ。アガリ性のオレには無理ですって。ガチガチに緊張して走れなくなるのが関の山ッす!」 「俺はマジメに言ってるんだよ、上方。このタイムならオリンピックも夢じゃないと思うんだがなぁ。磨けば光るぞ。」 「…」 「ヨシ!今度の地区大会、メンバーに入れとくからな!」 「エッ、マジでカンベンですって!ホントにオレっ…」 「今年はトロフィー、ウチのもんだなぁ!ハッハッー!」 「オレの言い分は無視!?ねえ…無視!?」 「…センコー、熱血漢だからなー…スポコン入るしな。」 「ま、期待してるよ。実際、俺らも。上方!」 バシッと背中に一発。 「せんぱーい…マジメにオレ、大会とかヤなんですって…」 …ったく…人事だと思って。 人事だけどさ… でも、ほんっとーに!目立つのスキじゃないんだよ…。 今だって… どれほど、“抑えて”走ったか……。 本当の力を―――
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