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「ぁ…のっ、やまっ…、山本さんっ(ミズキちゃんの名字)!!」
(言ったーーー!遂に言ったぞオレっ!)
…声が少し裏返ったような気もしなくもないが!
よくやった、オレ!
「エッ?」
いきなり名前を呼ばれた彼女はビックリして振り返った。
「ぐ…偶然だねー…いっ…今ぁー、帰りなの?」
何だかまた裏返った声。
彼女はキョトンとした顔で、渡り途中のその場に立ち止まった。
「あ、あー…!隣のクラスの!えと…上方くん?」
「名前、知ってたんだ」
ちょ…
マジ、テンション上がるんですけど!!!
「だぁってぇ。有名。陸上部の期待のホシ~てやつ?ウチのクラスの女子とかも言ってるよぅ…フフ」
目を細めて笑う彼女。
かっ…
か・わ・い・い!!!
「陸上部の顧問、ウチの担任しょ?“アイツを将来、オリンピックに出す!”とか言ってる」
「マジ?もー…なる気なんてないのに(心から)」
「そうなの?もったいないなぁ」
横断歩道の信号は点滅しだして、やがて赤に変わった。
彼女は横断歩道の真ん中で立ち止まったまま。
信号が赤に変わった事を、オレと彼女は気付いていない。
「あ、オレっ!送る、送るよっ!家まで!暗いし!女のコ一人じゃ危ないし!オレも今!帰るとこだから!」
「そうなの?じゃー、お言葉に甘えちゃおっかな!」
彼女はオレにとびっきりの笑顔を向けてきた。
マジ…この笑顔は…反則…
最高に情けない、デレッとした顔を、オレはしていただろうか…
キュキュキュキュッ…キーッ
耳をつんざくような、そんな音がいきなり聞こえた。
信号ギリギリで無理矢理に左折してきた一台の乗用車が、横断歩道の真ん中に立ち止まったままの彼女を捕らえようとしていた。
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