0:目醒めの呪文

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「ミズキ…ちゃ…ん…」 なんでだ? なんで彼女が… ていうか… オレ… オレが悪い… 声をかけなければ。 彼女を完全に横断歩道を渡らせていれば。 そもそも、今日じゃなければ。 明日にしておけば。 …色んな要素が頭の中をめぐった。 車… そうだ、車… 彼女を撥ねた、あの車。 ナンバーも色も車種も覚えている。 スローモーションで流れたあの一瞬にオレは全てを“記憶”した。 やがて感情は黒い怒りに変わっていった。 「君、大丈夫?震えてるけど?」 震え…? ああ… 「怒りで震えたなんて初めてだ」 「えっ?何?」 足は既に駆け出した。 あの車を追うため。 「ちょっと!どこ行くの!彼女なんじゃないの!」 いくらなんでも人を撥ねた後で、地理に乏しい横道に入ったりはしないだろう。 ナンバープレートは他県のものだった。 この国道は高速につながる道だ。 インターに入り、何としても、この場を離れ遠くに行こうとするはずだ。 今は相当焦っているはずだ。 車へこんでいないかな破片落としてきてないかなすぐ捕まるかな… サツが捕まるその前に、オレが捕まえて裁いてやる。
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