0:目醒めの呪文

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・佐原 澪編 小さい頃から人の顔色ばかり伺ってモノゴトを話していた。 相手が不快に思わないように言葉を選んで話していた。 だから話を始めるまでに凄く時間がかかった。 (こんな風に言ったら嫌われるかな) (こんな風に言ったら嫌な思いを相手はしないかな) 「アンタは何かいつも言いたげだね?口を金魚みたいにパクパクさせちゃってさ。言いたい事があるなら早く言いなよ。ほんっとイライラするわー」 (いつも良い子でいるよ。何でも言う事聞くよ。だから恐い顔しないで) 常にオドオドしていた私を母は嫌っていたと思う。 父はあまり家に居なかったから、父はそんな私と母の関係を知らなかったと思う。 …と、言うか…関心が無かったと思う。 父は外に“あいじん”が居るから帰って来ないのだと、幼い私に母はよく言っていた。 “あいじん”が何なのかは知らなかったけど、その話をする時の母の顔は見たコトない位に、すごく恐い顔をしていた。 『私よりあの女の方がいいなんて許さない』 ―――要するに、母より別の女の人が父は好きなんだ、と理解した。 (私は良い子にするよ。だから泣かないで、お母さん)
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