深海線路

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私は海に潜っているのだと思っていた。記憶にある境界面。波打つ水面だと思っていた。一旦潜ってみると、慣れるまで眼が見えなかったから、考えてみれば、振り向いた先に太陽があったのか分からない。 そもそも太陽とは何なのか。 私は駅に独り、ぽつんと取り残された。どうやら個人個人に用意された駅らしい。 海底、振り向いた先、暗闇。 私は何か思い出さなければならないような、そんな気がした。紛らわしい人、温かな女の人、それから。温かな女の人――。 海がゆっくり私の中へと染み込んでいくのが分かる。私は激痛の中、叫んだ。 言葉にならない何かを。
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