《弐》

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ゴッ!! 千嘉の右手の拳は、見事に悠斗の顔にアッパーを決めていた。 「さっ…、さすが千嘉ちゃん…。いい…パ…ンチ…。」 悠斗はそう言いながらゆっくりと倒れていった。 (行動が読めないって言ってた割りには反応が早かったじゃねーか…。) 俺は倒れていく悠斗を見ながら思った。 「ね、そんな事より龍翔、あんたの家、誰もあの事件に巻き込まれてない?」 「あの事件って?」 俺は家にいてもほぼテレビや新聞を見ないため、世の中でどんな事が起きているのか、ほとんどと言ってもいいほど知らなかった。 「知らないの?最近、この街の付近で不可解な殺傷事件が起きてるんだよ。」 さっきまで倒れていたはずの悠斗は、いつの間にか俺達の間に立って、そう言った。 「…お前、復活はえーな…。それにしても、そんな事件が起きているのか…。うちは全員、何ともねぇけど…。」 「そっか、よかった。ちょうど1週間前に、神社の近くで襲われた人がいるって聞いたからさ。ほら、龍翔の家って結構神社に近いじゃない?それに、龍翔と弟クンとおばさんの3人暮らしだから更に心配で…。」 千嘉は昔から俺の家のことを気に掛けてくれている。幼なじみだからというのもあるだろうが、うちは父親がいないというのもあるのだろう。 親父は俺が8歳のときに、俺が車にひかれそうになったのを助けようとして車にひかれてしまった。俺の命が助かったのと引き換えに、親父は死んでしまったのだ。 せめてもの救いは、弟がまだ赤ん坊だったためにその光景を見ていないことだろう。あんな思いをするのは俺だけでいい…。 「事件が起きているっていうのはわかったけど、不可解っていうのはどういう意味なんだ?」 「当然、犯人はまだ捕まってないんだけど変なんだ。襲われた人達は、いつ襲われたのかわからないんだって。でも、傷口はどう見ても刃物で切られたようにしか見えないらしいんだ。死者もでてるし…。」 悠斗は本当にわからないというような顔で言う。 悠斗から聞く話では、その死者は、友達と一緒に買い物をしに街を歩いていたら、突然倒れたらしい。 一緒にいた友達が心配して駆け寄ると、大量の血が流れていたそうだ。まるで大きな鎌にでも切られたかのように…。 その子はそのまま大量出血のため、亡くなったのだ。
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