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エロ河童を語るには彼を生んだモノの物語も語らねばならない。それもまた哀しき物語であったとしても。父となる男の名は玉川金之介。
唐突だが、玉川金之介は67歳まで童貞を貫いていた。モテなかった訳ではない。何故かは解らないが、女性と付き合うことはおろか、日常会話すらする気になれなかった。
金之介は46歳の冬にその答えに辿りつく。大売り出しと騒々しく印刷されたスーパーのチラシ。その鮮魚コーナーに描かれた男のイラストに目を奪われたその瞬間に。
「そうか、そういうことか…」
今までの人生、何度も味わった苦悩とこの先味わうであろう絶望を思えば、金之介には笑う以外に術がない。
「フヒヒィ、フフッヒヒ、フガフフ!」
長い時間孤独を共にした部屋に薄気味悪い笑い声が響く。
金之介が掴んだ事実。それは金之介が同性愛者であること。それはいい。例えそうであったとしても、なんら恥じることはない。世間では異常なことではないのだ。あくまでも表向きの建て前では。だが、金之介の笑い声の意味はその先にある。金之介は魚屋の逞しい男に興奮したのではない。逞しい魚屋の男の‘イラスト’に興奮したのだ。
「アフィ~…アフィ~…、俺は二次元のゲイに興奮する二次ゲイ…フィフフィ…」
なんという不幸か。神はいない。少なくとも彼に微笑む神はいない。
それから物語が動き出す67歳の春を迎えるまで、金之介は彼の好きな逞しい男のイラスト達と毎夜眠らない蒸し暑い夜を過ごすことになる。
彼の人生に一瞬訪れ、夏や秋をすっ飛ばし、厳冬へと誘ったあの春が来るまで。
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