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「ねぇ、痛いよ~」
護一(ユズイ)が言うと、潤(ウル)はパッと手を離した。
「ゴメン…」
そう言う潤は可愛い。そう思った、護一はにっこり笑った。
「平気だよ。それより、手繋ご」
「うん」
差し出されたのは公立高校の制服から伸びる手。そこに私立高校の制服から伸びる手が重なった。
「ねぇ、ゆず」
「なに?」
潤の声が好きな護一は握った手に力をこめて僅かしかない身長差を利用して潤を見上げた。
「あんまり……」
潤はそこで言葉を止めた。
「……なに?」
しばらく黙っていた護一は潤に言葉の続きを促す。その手を握り返した潤は首を横に振った。
「何でもない」
「えー。それはナシだよぉ」
護一は頬を膨らました。
「ねぇねぇ、なに言いかけたの?」
問い掛ける護一を笑顔でかわす潤。
(まさか、あの馴れ馴れしい先輩に嫉妬したとは言えない…)
潤は思った。護一は自分で気づいてないが、普通に可愛い女の子だ。運動神経に比例してか頭はあまり良くないが、そこも可愛い。潤は体育館や校庭を元気に飛び回る護一が好きだ。
「ねぇ、ウル一」
護一が歩きながら潤にしなだれかかった。急に体重をかけられた潤はバランスを崩してよろけた。
「危ないよ、ゆず」
「えへ~」
笑って誤魔化す護一は、繋いだままの手を振り回した。
「で、なに言いかけたの?」
潤は目をそらした。こういう時の護一はしつこい。このしつこさとスポーツへの情熱を少しでも勉強に傾けてくれないかと潤はいつも思う。
「なんでもないって。それよりもさ、夏休みは予定ある?」
「ん~?ない。でも、まだ先だよ?期末があるもん」
潤の問いに答えた護一は期末テストを思い出し、渋い顔をした。
「じゃあ、また試験勉強しようね」
潤に微笑まれ、護一の額にさらにしわが寄った。
「ヤブヘビ」
呟くと、額に潤の手が当たった。
「しわ、癖になるよ?せっかくゆずと歩いてるんだから、笑って?」
のぞき込むように言われて、護一は俯いた。
「ね、ゆず」
「っ~‼」
重ねて言われ、護一は赤い顔で笑顔を作り、潤へ向けた。
「うん」
潤は満足そうに笑うと、握った手を小さく振った。
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