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ザク。
雪を踏む音がした。
ザクザクと細い足が雪を踏む。足跡には血が点々と落ちている。
「はぁはぁ……。はぁ…うぅっ。くぅ……」
右手に靴下とローファー、左手に学生鞄、斜めがけしたスポーツバッグといった出で立ちの少女は振り返った。ぱっくりと裂けた頬に付いた血を汗とともに拭う。
「あ~寒っ」
呟くと、どこかの家の低い塀の雪を落として腰掛ける。
「これからどぉしよ……」
スポーツバッグから出したタオルで足を拭い、寒さで腫れた足に靴下とローファーを履く。
「もう、うちに帰れないよ……」
そう言って自分の手を見つめた。
先程……、といってももう30分近く前になるが、少女は父親をひっぱたき家を飛び出してきたのだ。
かといって、少女自身が悪いわけではなかった。
昼間から酒を飲んだくれ、やくざまがいのことをしている父親が、いきなり少女に手をあげたのだ。前々から嫌いだったが、堪忍袋の尾が切れた。
そのまま、父親をひっぱたき返し“家出セット”と称したスポーツバッグと近くにあった学生鞄と靴下をひっつかんだ。少女を叩こうとした父親の手をすり抜け、追いかけてくる罵声と怒声と足音にもめげずに自分の靴を掴んで外に走り出した。そして、今に至る。
「ホント最悪」
あの優しいイトコの日織(ヒオリ)と血の繋がりがあるとは思えない。
「そうだ、日織のとこにいこう。それから、海外に行くんだ」
財布も通帳もある。そこに入っている金の大半があの父親が気まぐれでくれたものだというのは大変気にくわないが、背に腹は代えられない。
「よし、日織の顔を見て外国に行くんだ」
声に出して確認した少女は立ち上がった。
パンパンとスカートを払い、一つ頷くと雪を踏んだ。
少女…皐桜夜(イツキサクヤ)は夜の町へと歩き出した。
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