Peace Ⅲ

2/2
前へ
/24ページ
次へ
(確か、この駅のはず……) 私鉄を紬井(ツムギイ)駅で降りた桜夜(サクヤ)は空を仰いだ。看板を確認し、JRのホームまで急ぎ足に進む。 (あった。『唐媛(カラヒメ)駅』行きの電車) 何度も行き先を確認してから電車に乗り込む。 (五つ先の駅まで、だ) 車内はそこそこすいていた。もう夜も遅いからか、残業したらしいサラリーマンの影がちらほら見えるだけだった。 (はぁ……) 座席に身体を預けた桜夜は学生鞄から小瓶を取り出した。 小さなそれは、最後に会ったときに日織(ヒオリ)がくれた物だった。 『僕はまだ子供だから…』 『でも、一所懸命選んだんだ』 『これは、僕と桜夜との約束…』 『この香水は“Creato”。意味は……』 「…鏡峰(カガミネ)~。鏡峰~」 ハッと桜夜は顔を上げた。慌てて立ち上がり、減速し始めた電車のドアの前に移動する。 パシュ~。 気の抜けたようなエア音を立ててドアが開いた。カツンと軽い音を立ててローファーがホームを叩いた。 (夢を見た……) 目をこすりながら桜夜は改札に向けて歩き出す。最後に日織と会ったときの夢。何度も、すり切れるほど見た夢。 「日織…」 桜夜はそっと呼んだ。当然のことながら、返事は帰ってこなかったが…。それでも桜夜は歩いていった。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加