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(確か、この駅のはず……)
私鉄を紬井(ツムギイ)駅で降りた桜夜(サクヤ)は空を仰いだ。看板を確認し、JRのホームまで急ぎ足に進む。
(あった。『唐媛(カラヒメ)駅』行きの電車)
何度も行き先を確認してから電車に乗り込む。
(五つ先の駅まで、だ)
車内はそこそこすいていた。もう夜も遅いからか、残業したらしいサラリーマンの影がちらほら見えるだけだった。
(はぁ……)
座席に身体を預けた桜夜は学生鞄から小瓶を取り出した。
小さなそれは、最後に会ったときに日織(ヒオリ)がくれた物だった。
『僕はまだ子供だから…』
『でも、一所懸命選んだんだ』
『これは、僕と桜夜との約束…』
『この香水は“Creato”。意味は……』
「…鏡峰(カガミネ)~。鏡峰~」
ハッと桜夜は顔を上げた。慌てて立ち上がり、減速し始めた電車のドアの前に移動する。
パシュ~。
気の抜けたようなエア音を立ててドアが開いた。カツンと軽い音を立ててローファーがホームを叩いた。
(夢を見た……)
目をこすりながら桜夜は改札に向けて歩き出す。最後に日織と会ったときの夢。何度も、すり切れるほど見た夢。
「日織…」
桜夜はそっと呼んだ。当然のことながら、返事は帰ってこなかったが…。それでも桜夜は歩いていった。
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