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男は顔を顰めると、目の前の沙羽の手を勢い良く払い退けた。
沙羽が「あっ」と沙羽なりの艶かしい声を上げると、「その気色の悪い声は止めろ。」と、冷たく言い放ったその男はどう見ても苛立ちを隠せていない様子だった。
そのマンションの六階でエレベーターが止まると、ヒールの音と水をたくさん含んだ靴の音が一番右の奥の部屋へと進んで行った。
そして、そのヒールの音の主である沙羽がガチャリとドアノブを開けてから微笑むと男に言った。
「ちょっと散らかってるけど、さぁ上がって!!」
男はそう言われて溜め息を一つ溢し、玄関に足を踏み入れ様として足を上げた。
だが。
「……なんだ、これ…」
男が更に顔を顰めそう言葉を吐き出すと、沙羽は「ゴミ袋」と言って退けたのだ。
「そんなの見れば分かる。…どうやって上がれと言うんだ?」
そこには幾つものゴミ袋で沙羽の背丈と同じ位の高さ程の山が出来上がっていて、最早玄関には靴を置くスペースも入って行ける程のスペースもなかった。
「あ~、そっか…」
思い出した様に沙羽は口に手を当てて呟いた。
「下駄箱の中も上も靴が置けないから…そうだ、其処に置いといて♪」
満面の笑みを浮かべた沙羽が指を指して靴を置く様に促したその先は、玄関前の共同スペースであるポーチだった。
男は顔を引き攣らせる。
「ふざけてんのか?…玄関の外じゃねぇか、そんな事も分からないのか、あんたは…。」
男がそう言うと、沙羽は一瞬悪態を見せてからため息を零し「分かったわよ」と言い、玄関前から数歩だけ後退りをした。
男が怪訝そうに沙羽を眺めた。
「……じゃあ、ちょっと待って、てぇぇええええええええええええぇい!!!!」
「は!?」
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