行き摩りの?

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男は目を丸くした。 何故ならその場で靴を脱いだ沙羽は、軽く二、三度ジャンプをして短めの助走をとると、まるで陸上競技の選手のようにゴミ山をハードル走の様にして、見事なフォームで飛び越えようとしたからだった。 しかし、背丈ほどのゴミを跳び越えられる訳もなく。 ズザザザザと音を立ててゴミの山にぶつかると、ゴミと一緒に転げていった。 多いとまではいかないが、今までに何人かの女と付き合ってきた男だったが、正直こんな沙羽の様な女は見た事も会った事もなくて、まるで未確認生物を見てるかの様に面を食らってしまった。 一体何なんだこいつは… そう男が呆然としていると、ゴミ山をかき分けて通れるだけの通路を確保する沙羽が顔を出した。 「えへへ。ちょっと最近疲れててゴミが溜まっているけど、今日ゴミの日だから。捨てるから大丈夫。はい。ここから入って。」 そう言うと、沙羽は入る事に躊躇している男の腕を引っ張った。 「わかったから、引っ張るな。」 男はそう言って沙羽の腕を振りほどき、面倒な女の様だから帰ろうか…と思ったのだが、これまでの一連の事を考えても、この変な女が変に騒ぎ立てても困る…と思い改め仕方なくこの流れに身を委ねる事にした。 そんな男が脱いだ靴を通路にある自分の靴の隣に並べると、沙羽は微かに鼻歌を歌いながらドアを閉めた。 弱まる事の知らない雨の音が響く通路に二人分の靴が並ぶと云う不可解な風景を余所に、鼻歌を響かせる沙羽がソファーに座らせておいた男の元にバスタオルを持って現れた。 「も、もし良かったら、シャワー浴びてきてもいいよ?風邪ひくだろうし、その間にその服洗濯してもいいし…」 どうやら自分の好みの男を前にすると普段何の事もなく口に出来るその言葉も、沙羽の微かな下心と反響しあって意識し過ぎるせいなのか、とてもぎこちなく沙羽の目は男を注視出来ずに左右に泳いでいた。
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