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「震えてる…寒いですか?」
お茶を運んできた沙羽が心配そうに声をかける。膝をついてお茶をその男の前に差し出すと、「暖かいうちにどうぞ。」と言ってソファーに座る男の顔色を伺った。
看護師の母を持つ沙羽は、湿布の消炎、鎮痛剤が強すぎたのかなと思案顔で男を見つめると、「顔色が良くないみたいだけど、大丈夫ですか?」と男に尋ねた。
「あ、もしかして具合が悪い?」
「……大丈夫。寒くもないし、具合も悪くないから。」
男はそう言うと、差し出されたカップを手に取り、小さい声で頂きますと呟くと、口に含んで「それより」と続けた。
「あんたこそ、大丈夫なの?こんな見ず知らずの男を、事故ったからってうちに連れ込んで…。付き合ってる奴がいるんじゃないの?この服だって…。」
そう言って、男はまたカップに口をつけた。
沙羽は、「そう言った人は今はいないの…その服はその…」と言って言葉を濁し俯いた。
言えるはずがなかった。恋人が出来た時の事を考えて、カップ同様に用意をしていた物だなんて。
そんな事を言えば、自分は頭の可笑しな女だとアピールしてしまうし、『恋人がいないから大丈夫、気にしないで!』とでも、言おうものなら、忽ち自分は軽い女だとアピールしてしまう事になる。
否、そういった事を期待していない訳ではないのだが、寧ろ、狙っている方で。
だけど、この先、こんな自分の好みのタイプにピッタリと当てはまる男性に、出逢える機会はあるのだろうか…と思うと、沙羽は慎重にならざるを得なかった。
一体なんて言えばいいのだろうか…
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