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沙羽は再び、深くため息を吐いた。
「なんだ、だらけすぎじゃないか?母さんは?」
「買い物~。たまの休みくらいゆっくりしないと、やってられないんだもーん。」
そんな沙羽に聡は顔を顰めると、どの口が言ってるんだと呆れて「仕事だけして家の事も満足に出来ない奴が、よく言えたものだな」と突き返した。
「…そうか、買い物か。」
「ねえ、今お父さんが仕事で追ってる事件って、この事件なの?」
沙羽はそう言って、仰向けのままでテレビの方に指をさした。
テレビではまた、この街で起こった殺害事件のニュースが流れていた。
「……そうだ。お前も、何かと物騒な世の中だ、ちゃんと真面目に暮らして、気をつけるんだぞ。ゴミは必ず出しなさい。トラブルの原因になり兼ん。」
そう言って聡は、「分かったな。」と付け加えると、眼光を沙羽に飛ばした。
沙羽はウッと言葉に詰まると、毛布を目の所まで引き上げて「はーい」と弱々しい声で答えた。
そう、沙羽の父親の聡は刑事だった。
昔からの堅物で、何かと口煩いし、厳しいし、煩わしいとさえ思った事もあった…。
しかし、その父親である聡の言う事は、いつだって正しかった。
沙羽は、聡にゴミの事を二度まで言われて、あの日、あの男と一夜を共にしたその日のゴミ出しにも、結局出せなかった事を思い起こした。
その後に三度程、ゴミ出しの日があった訳なのだが、あの男が消えてから抜け殻の様になってしまった沙羽に、ごみの事など一欠片ほども頭の中にはなかったのだ。
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