雨が降る

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それに、この場所は山中の一角にあって、近くには民家も無い。   助かる筈がないのだ。   近くには農大の使う敷地はあるが、きっと今からの天気では暫く誰も来ないだろう。   雨…   考えれば考える程、思い出せないでいる。   もう、思い出すのも何もかも、諦めてしまおうと、男は力なく溜め息を溢した。   今まで真面に生きて来なかった罸なのかも知れない。   思えばまだ二十歳の年の頃だった。   お金に困り、仲間の一人と二人で強盗に入り罪を犯したその時から、歩む人生は決まってしまっていたのだろう。   大学に慣れ始めた頃だった。   一番お金が必要とする時に、父親がリストラされたのだ。   だが父は、大学を辞める事だけは、頑として許そうとはしなかった。   それは父が、家族を思って思案し、導き出した答えだったのだろう。しかし。 あの経済的苦しさは、それまで甘やかされて育った自分には、到底我慢の出来たものではなかったのだ。 只、どうにかしたった。   その時、特に親しかった仲間の内の一人から声が掛ったのだった。   そいつは、自分とは全く正反対の環境にあったに関わらず、親には内緒で大金が必要だからと言っていた。  二人、共にして大愚な人間だったのだ。   男は、自嘲の笑みを浮かべた。
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