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あの時どんな理由があるにしろ、耐えていればこんな人生の終わり方はしなかっただろうと、今更乍に後悔の念を自分の中に感じとったからだ。
そうあれは、血に染めてしまった手を洗い流す様にして、雨に濡れてあいつと二人逃げ帰ったっけな。
そこまで思い出した時だった。
男は目を見開いて、過去の記憶が映し出される虚空を見つめていた。
まさか、あの時の…
そう気付いた時、ぽつぽつと降りだしていた雨が、急激に勢いを付けて降りだした。
激しい雨に打たれる男。
雨垂れは泥を強く跳ね上げた。
次第に顔は、その泥に塗り潰されていく。
沼の水嵩もどんどん増していく…
沼の水位がガムテープで塞がれた口の辺り迄くると、男は不気味な迄の自嘲の笑みを浮かべ鼻で笑った。
その一時間後…
依然として勢いが続くこの雨で、沼はいつも以上に水を湛えていた。
あの雨に打たれて笑う男の顔は、もう、沈んでしまっていて、何処にあるのかすら分からなくなってしまった。
「後は…あいつ…」
街に戻っていたもう一人の男が、この激しい雨の中にも関わらず、防水対策は一つも無しに自転車で走りながら、ぼそりと呟いた。
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