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藍染達が起こした反乱から二週間が経ち、混乱を強めていた尸魂界にも漸く僅かな平穏が訪れていた。
とは言っても所詮それは表面上の事であり、細かな部分を見ていけば、まだまだ癒えない傷を抱えている者達がいる。
その中でも取分け大きな傷…、それも心の傷という重大な傷を抱えているのは、謀反の首謀者たる藍染惣右介と市丸ギンの恋人であり、零番隊隊長を勤める黒崎一護だった。
「……」
隊舎付近にある綺麗な泉の前で、ただだんまりと月を見上げる一護の表情は重く、それに比例するかのように元々細かった身体は更に細くなっている。
それはここ最近食事はおろか、睡眠すらまともにとれない日々が続いた結果であった。
それ程に…それ程までに一護の心は、藍染達という色に染まりきっていたのだ。
――いっその事、冷たく突き放してくれたなら、嫌いになれたかもしれない
いっその事、この胸に冷たい刃を突き立ててくれたなら、耐え難い孤独など知らずにすんだかもしれない
けれど結局二人はただ自分の手を離しただけ。そのため嫌いになる事も出来ないでいる自分は、ただひたすら一人という孤独を感じながら生きていかなければならなかった。
この躯も心も、もう他の者では満たせないというのに…。
「…惣右介…ギン…」
募る想いは枯れる事を知らず溢れるばかりで、かと言って嫌いになる事など決して出来ない悪循環。
そしてその悪循環は、確実に一護の身体と精神を蝕み続けていった。
生きる気力も、本来ある太陽のような笑みも、侵される程に…。
「……」
――チャキ…ッ
本当は、こんな事をしても状況が何も変わらない事は解っているんだ。
けど、今更あの二人なしに生きる事は、俺には出来ない。
愛してるんだ。あの二人を、どうしようもなく愛している。
だから、この思いと共に俺は――。
――ギュ…ッ
強い想いは固い決意へと変わり、一護は手にした己の斬魂刀を強く握り締めると、身体の中心にその刃をあてる。
しかし、
「やめなさい、一護」
「!?」
そのままいけば一護の胸に突き刺さるはずだったその冷たい刃は、突然背後から響いた声によって止められた。
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