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「痛い目見せるくらいだったら、手を貸そうか?」
そんな声が聞こえてきたのは開けっぱなしの窓の方。
実は3階のこの部屋に、まるで1階の窓に外から声を掛けられた様な近さのそれに驚いて、三人は一斉に外を見遣る。
「…最上先輩!!」
「ここ、3階ですよ?!」
「何で窓枠に張り付いてるんですか?!!」
「『高き冒険者』に不可能は無いよ♪」
口々に驚愕の声を上げる三人に、軽いノリでそう言って、蒼太はひょい、と軽く反動をつけただけで室内に入って来る。
勿論靴は室内履き。
どうやら屋上からワイヤーを垂らして降りて来たらしい。
「何でこんな事を…」
「範人君とシオン君に頼まれてた本を持って来たんだけど、玄関が閉まってたから。非常階段使って屋上から来たんだ。」
それにしても部屋の位置を把握していなければ出来ない芸当なのだが、彼にその辺の常識は通用しないので後輩組は何も言わないでおいた。
その間に蒼太は器用にワイヤーを回収する。
「…で、魁君をこんな目に合わせた人達に痛い目を見せるんでしょ?ケンカとは違う方法で。」
ニヤリと笑い、逸れていた…というよりも彼の登場によって逸らしてしまった会話を元に修正して、範人とシオンに本を手渡しながら蒼太は聞く。
「でもでも!ケンカじゃなくて痛い目見せるって…どうするんですか?相手の名前も、学校すら分からないのに!!」
範人の尤もな質問に、他の二人もうんうんとうなずく。
確かに相手が特定出来ない以上、どうしようも無い気がするのだが。
しかし蒼太は不敵な笑みを崩さず範人に渡した本…ある有名なスパイ小説を指差す。
「明日、僕の部屋にその本持っておいで。」
その時蒼太の意図に気付いたのは、唯一機械系に強く、尚且つ読書家のシオンだけだった。
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