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「たかが犬ごときで……。」
「あなたにとっては『ごとき』でしょう。でも私はそうじゃない。例を上げれば、私からするとあなたの持っている刀は『ごとき』です。」
「お前……。」
土方が低く唸り、篠霧を鋭く睨んだ。
いくら例でも、自分の所有物をごとき呼ばわりされるのは気分のいいものじゃない。
「あなたがそれを言われて怒るなら、私もそう思ったとわかっていただきたい。それだけ、私はこいつが大事だと解釈できますか。」
「……。」
土方は唇を一文字に結んで、篠霧を見据える。
相手を圧する土方の視線に、篠霧は怯え怯むことがなければ、逸らすこともない。
「価値観は人それぞれ。当たり前ですが、それを中々理解しないのが人です。でも、理解できるかもしれない機会に理解できたら、人を理解して多くの人をまとめることができる。」
にっこりと、篠霧は笑った。
「……そうは思いませんか?壬生浪士組副局長土方殿。」
土方の目がついと細まった。
探るような目付きだ。
笑顔のまま、篠霧は首を少し傾けた。
「これはあくまで私の思うところ。強制して同意を求めているわけではありません。」
ただ選択肢を与えただけだと、篠霧は言う。
玄は篠霧の腕に抱え込まれるように直されている。
「私はどんな人からも選択する意志を奪う気はありません。その人の自由です。だから、あなたは私の思うところを馬鹿馬鹿しいと言って切り捨てるのもよし、あなたの思うところを信じ続けるのもよし。」
ただと、篠霧は唇は笑みの形を作ったまま続けた。
「……あなたの選択で左右されるのはあなただけじゃない。」
篠霧は左右にいる沖田、永倉。そして部屋にいる原田にそれぞれ一瞬視線をやってから、土方に戻した。
「あなたは多くの部下を担っている。……あなたには多くの部下がいて、その部下もあなたの選択に左右されることを、お忘れなきよう。」
それと、選択したからと言って、部下全てがその道には行かないことも。
人は、人。個々に意志があるのだから。
口を開かないのか開けないのか、どちらかわからないが土方は沈黙を守っている。
すると篠霧は笑みを消して小さく息をついた。
「…………話を逸らしてしまいましたね。すみません。」
浅く礼をして、篠霧は謝罪した。
表情が若干疲れて見える。喋り疲れたらしい。
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