騙し騙して騙されて

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  すると、堪えかねたように近藤が吹き出した。 土方から顔背けて肩を震わせている。   だが、笑えるのは近藤だけだ。原田は本気で笑えない。   その時、土方がふらりと立ち上がった。 障子に近付いていく足取りはしっかりしているが、静か過ぎて逆に怖い。   そんな脅威が近付いているというのに、障子の向こうの騒がしさは収まらない。  そしてとうとう、土方が障子に手をかけた。   すぱーんっ! 「いい加減にしろやぁぁ――――っ!!」   鬼の怒りの臨界点が突破された。   障子が開かれるやいなや、土方の怒号が轟いた。 だがこんな怒号ひとつで土方の怒りが治まるわけない。   「さっきからごちゃごちゃと!入るならさっさと入れってんだよ!ただでさえ待たされてんのに礼儀を知らんのかお前らはっ!!」   廊下にいた三人は一様に肩を竦ませ、部屋にいた原田も真正面にいないのに例外なく竦ませた。   「俺が怒ってんのわかってたなら尚更早く入って来い!!」   「す、すまん。土方さん。」   いち早く謝った永倉はとにかく土方を宥めようと必死だ。 復活が早かったのはそれだけ怒られ慣れているということか。   逆に、沖田はぶぅと頬を膨らませている。   「別にそこまで怒鳴らなくても……いたっ。」   素早く永倉が沖田の後頭部を引っ叩いた(ひっぱたいた)。   「あ゙ぁ゙?」   「気にしないでくれ副長。」   引き攣り気味の笑みでなんとか取り繕おうとする永倉の横で、不服そうに目を半眼にする沖田。   そこで、今まで黙っていた篠霧が口を開いた。   「……あなたが、土方という、ここの副長ですか?」  「だったらなんだ。」   土方の先程の怒号と、今の威圧的な睨みにも臆することなく、篠霧は両脇を持って抱えている玄を目の高さに上げた。   玄の目は据わっており、なんとなくだが喧嘩腰に見えなくもなかった。   「いえ、あなたがどんな顔なのかという確認がしたかっただけです。あと、この犬の入室許可が欲しいのですが。」   土方に玄の鼻先を近付けて、篠霧は言った。 土方と言えば若干鬱陶しそうに玄を見る。   あれだけ怒鳴ったのに、怯んだのは一瞬で平然とこんなことを言ってくるとは。というか、怯んだ時も怖さというより煩くて鬱陶しさから肩を竦めたように見えた。   「……だめだと言ったら。」   「即去ります。」   障子の向こうで宣言したことは翻さないらしい。 
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