落ちて堕ちて飛ばされて

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  篠霧と玄は、石段を上っていた。 目指す倉は、実は少しだけ山に入ったところにあるため、石段を上る必要があるのだ。   鋭い日差しも木々の作る木陰でやわらかくなり、所々苔がある石段のおかげでひんやりとしている。   その倉は白夜と会った先程の集落から少し歩いたら、瓦屋根が木々に埋もれるように見えた。 このように倉が山の中にあるのは、使用目的にあった。   なんでもその倉は食料を保存するためのや、今回のように古いものを収容したりと使用されていた。 どちらの場合も、涼しく木陰の中にある方が保存し易かったのだ。   「……別について来なくてもよかったのに。玄は荷物が運べるわけじゃないだろう。」   「いいじゃねぇか。こっちのが涼しいし。」   それに、あんながきと長時間いたら息が詰まると、玄は内心で呟いた。   「それにに俺真っ黒だから、日光吸収して余計暑いんだよ。」   だったらついて来ないで木陰かどこかで寝ていればいいものをと、篠霧は思う。  一度ため息をついてから、篠霧は玄に言う。 その間にも石段をゆっくり上がる。玄は犬のため、段が高い石段は時に跳ぶように、時によじ登るように上がった。   「妖は、寒暖は関係ないんじゃないのか?」   「まぁな。でも感じはする。夏は暑いと感じるし、冬は寒いと感じる。」   ただ、暑くても汗はかかないし、寒くても震えることはないのだという。   「へぇ。」   さほど興味がなさそうに篠霧が返事すると同時に、石段を上りきった。   ふぅと息をついて、篠霧は振り返った。 玄もよいしょと上りきる。  石段を上り、少し歩いて右手に倉がある。 目的地がすぐそこでも、篠霧はしばらく動かなかった。 木の葉の間から覗く田園に囲まれた集落を、篠霧は見下ろす。   玄は篠霧を見上げてから、同じように集落を見下ろした。   ざぁと、風が吹いた。   「……玄。」   ぴくりと、玄の耳が動いた。   「……私は、自分の過去は嫌いだ。」   風が、篠霧の髪や衣服を遊ばせる。   「──でも、ここは大好きだ。」   顔は見えない。 当たり前だ、玄は集落を見下ろしたままだから。   「……そうか。」   「あぁ。」   嫌いだ。 自分の過去も。過去に誓ったことも。 みんな嫌い。   だから過去を土台にできた今の自分も嫌いだ。   『信念を持たない、貫かない』。   嫌いな過去の誓い。   でも守り続けている誓い。 
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