騙し騙して騙されて

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  「いやはや、芯のある娘さんじゃないか。」   やや重苦しい空気の中、声を上げたのは近藤だった。からからと笑う近藤は全員の視線を集めた。   「なるほど、価値観を理解する、か。若いのによく人を見ている。」   「近藤さん……。」   土方が呼ぶと、近藤はにっと笑う。 土方の体が邪魔して見えないためか、近藤は体をずらして顔を覗かせ篠霧に笑顔を向けた。   「娘さん。中に入っておいで。もちろん娘さんの大事な犬も入って構わない。」  抗議しようと土方が口を開く前に、近藤は先手を打った。   「いいだろう?歳。俺は面と向き合ってこの娘さんと話がしたい。」   そう言われると、土方は複雑そうに顔を歪めた。 反論するようにたまに口を開閉させるが、結局言葉にならない。 いつも気兼ねなく接しているが、近藤は局長。上司なのだ。   やがて土方は諦めたように嘆息した。   「…………わかったよ。」  そう言って、土方は篠霧を鋭く見た。   「その犬っころがなんかしたら、即刻摘み出すからな。」   荒々しいながらも許可が出たので、篠霧は黙って頭を下げた。     ――――――――……     篠霧は近藤と土方の前に、沖田と永倉、結局残った原田は部屋の端に座った。   ちょっとした問題になった玄は篠霧の隣でおとなしく腰を下ろしている。   「さて、と。歳や俺のことは、総司か誰かに聞いたのかな。」   そう切り出した近藤に篠霧は肯定の意味で頷いた。   「はい。お二人の名前とこの組での地位を簡単に。」  「そうかそうか。でもなんだから、改めて紹介しておこう。」   そんな様子を少し離れた場所で見ている三人は、こそこそと会話していた。   「なぁおい。なんかあの女子いつの間にか話し方丁寧になってないか?」   そう言ったのは原田。 篠霧が話し方を改めたのは、原田が先触れとして去った後だったのだ。 それがわかっていた永倉が言ってやった。   「総司が直すように言ったんだよ。最初はぎこちなかったが、今はもう流暢なもんだな。」   永倉が後半感心したように言うと沖田が微笑した。   「だって、あの話し方だったら土方さん怒って話進まないだろうなと思いまして。仮に怒らなくても、怒りを募らせて後で爆発するのが目に見えてますからね。」   確かにと、永倉と原田は頷いた。 もし土方の怒りが爆発する事態になったら、被害を被るのは土方直属の部下である自分達なのだ。  
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